― 審神者・吉祥礼の筆より ―
初夏のある日、
若葉が風にほどけて香るとき、
わたしの胸の奥では、遠く忘れかけていた季節が、そっと揺れ始める。
それは言葉にならぬ懐かしさであり、
名もない感情が、葉擦れの音とともに甦ってくる――
あの頃、わたしはまだ「誰か」になる前だった。
過去でも未来でもない、ただ「いま」を生きる準備のような日々。
五月の光は、ただ静かに降り注ぐ。
草木は語ることなく、淡々とその身を伸ばし、
新しき生命の響きだけを大地に刻んでいく。
あの初夏の午後――
ひととき、風が止まり、
ふと差し込んだ光の向こうに浮かんだ面影があった。
それは懐かしさの化身だったのか、
それとも、未来から来たわたし自身だったのか。
いずれにせよ、その姿には声はなく、
ただあたたかさだけが、そこに在った。
悲しみもあった。
喜びもあった。
いずれも言葉にはせず、ただ光の中で透けてゆく。
記憶の中の出来事たちは、もう「語られるべき物語」ではなく、
いま、魂の奥底で静かに澄んでいる水面のような存在だ。
わたしたちは何かを「忘れる」ために時を経るのではない。
むしろ、忘却の先にある「真理」に出逢うために歩んでいるのだ。
今日という一日も、
まるで若葉のように、何かの始まりとして新しく芽吹いている。
そこに宿るのは、過去と未来を結ぶ永遠の静寂。
そして、新たに訪れた魂と共に生きるための、小さな祈り。
光は、すべてを赦す。
風は、すべてを運ぶ。
そして、若葉は、何も語らずただ伸びる。
その姿に、人の生もまた重なって見える。
この日、この瞬間が、
あなたにとってもまた「生まれなおしの日」となりますように。
※ちなみに、こちらは「初夏」つながりで浜田省吾さんの名曲「初夏の頃」、、、いや、ハマショーさん好きなんで(笑)