光の余白

『諸行無常の光 ― 平家物語を生きた人々』 第3話|平重盛 ― 忠義の光

義のなかに咲く儚さ。時代を越えて灯りつづける、まことの魂。


清盛の子にして、光の器

平重盛。
彼は平清盛の嫡男として生まれながら、まるで“光”そのものを託されたかのような人物だった。

激しく、燃えあがる父とは対照的に、重盛の魂は静かに、深く、灯をともしていた。

人はしばしば、清盛を「平家の興り」、義経を「源氏の華」と語る。
だが、そのあわいにこそ、重盛という“魂の要”が息づいている

この人物を欠いて、『平家物語』はただの滅びの物語となってしまう。
だが彼がいたがゆえに、この物語は「滅びの中の光」として、永く人の心に残るのだ。


誠を生きた者のまなざし

重盛の清廉さは、まさに奇跡的だった。 栄華の只中にありながら、傲ることなく、常に謙虚で礼を失わず、上下の隔たりなく人と接した。

武士でありながら、貴族の風格を備え、政治家でありながら、宗教者のようにまことに生きた。

彼は「灯籠」を愛したという。 人の世の闇に、小さな光を置くように生きた人だった。

自らの出自と運命に正面から向き合い、権力に流されることなく、父・清盛にすら諫言を惜しまなかった。


父に最も愛され、そして届かなかった声

清盛は重盛を深く愛した。 あの剛毅な父が、重盛のことを語るときだけは、声の調子が変わったとも言われる。

だが、愛するがゆえに、最も受け入れられなかったのもまた重盛だった。

激しさで世を切り拓こうとする清盛にとって、誠実と沈黙で生きる重盛の姿は、遠すぎる理想だったのかもしれない。

意見を述べるたび、父は聞かず、息子は黙り、ただ火と灯のあわいで、祈りのような対話が続いていた。

そしてその声が、ついに消えたとき――
平家は、内から音を立てて崩れ始めたのだった。


時代を超えて響く魂

重盛の死は、平家の“未来の死”であった。 まだ戦も敗北も起きていないうちから、精神の支柱はすでに失われていた

けれど、その魂の響きは、時代を越えてなお、生きている。

多くの人が、重盛を愛し、尊敬し、彼の死を惜しんだ。
誰よりもまっすぐで、誰よりも柔らかく、そして気高かった。

その生き方は、今を生きる私たちにとっても、大きな指標となりうる。

「まことに生きるとは、どういうことか」 重盛の姿が、それをそっと教えてくれる。


灯りを求めた人

重盛は、終生「光」を求めていた。 それは決して、名声や権力のようなまばゆさではない。

人の心にそっと寄り添うような、淡い灯火。
寒さのなかにひとつともされた、静かな明かり。

その光を守るために、彼は剣を持ち、役職を受け、時には戦いも受け入れた。

だが、そのすべての根底には、魂の潔さと、揺るがぬ優しさがあった。

重盛はただ、まことを貫いて生きた。

その姿は、今もなお、語りの奥に凜と立ち続けている。

吉祥礼

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